龍虎門が載ってない理由

はい。新入荷UPしました。
まず、珍しいマカオの作家・出版社による薄装本「餓虎」。
香港よりずっと小さな街であるマカオ
出版物・エンタメコンテンツのほとんどが香港からの移入品で、
オリジナルのものが出るということはなかなかないのですが、
それでも地元産のものをつくろう!と立ち上がった漫画家さんがいまして、
それがこの「餓虎」に結実したわけです。
かなり個性的な絵柄ですが、
読み進めるうちに、不思議な誘引力を感じはじめる一作です。


それからもうひとつ「玉皇朝作品大図鑑1993-1998」がございます。
当店も10周年と歴史を振り返る節目ですので、
良い機会だと思い、秘蔵の品ですがUPしました。
いわずとしれた黄玉郎が率いる
香港を代表する漫画出版社のひとつ「玉皇朝」。
こちらも本年、節目の20周年を迎えるそうで、
記念に大陸向けプレゼンテーション用の豪華オールカラー本をつくりました。
今回UP分は、その草創期・1993-98年の出版物を網羅しています。
ちなみにまずお伝えしておきますが、
この本には黄玉郎の代表作「龍虎門」は載っていません。
1992年から「新著」刊行開始の2000年まで、
「龍虎門」は別の会社、文化傳信が発行していたからです。
そうです。黄玉郎は自分が生み出した大ベストセラー&ロングセラー作品を
一時期手放していたのです。
それはつまり彼が有罪判決を受け、服役したからでして、
当店「香港コミックの歴史を知ろう!」ページや
それを孫引きしたウィキペディア日本語ページには「不祥事」としか書かれておりませんが、
1988年のブラックマンデーで金融資産にできた大穴を埋めるために
自分の会社を騙してお金を引っぱったのです。「横領」ですね。
香港の裁判所で1991年に判決が出まして、93年まで入獄していました。
その間は漫画を描いたり出したりは当然できないわけです。
それでも「龍虎門」を守り、出し続けていた彼の会社は
1992年に「文化傳信」へと衣替えし、全く違う会社として歩み始めました。
93年に黄玉郎が娑婆に戻り、新会社をつくったものの、
すぐに「龍虎門」を取り戻せるわけではありません。
父親がムショに入ってしまい、他の親族に引き取られた子供が
トウチャン帰ってきたからといって
すぐに一緒に暮らせるとは限らないようなものでしょうか。
結局、文化傳信から「授権」という形で取り戻し
「新著龍虎門」をはじめるまでに7年ほどの月日を要しています。
その間に発表した「龍虎5世」という現代SFアクションがあるのですが、
ところどころに「龍虎門」を出せないくやしさが投影されています。
起こしたあやまちで失ったもの、取り戻そうとする強い意志、
香港漫画の歴史にはそういったドラマもあるんですね。
そんな香港コミックの作品を連続紹介している
ツイッターの「香港漫画列伝」、
篤志の方がまとめサイト「Togetter」でまとめてくださいました。ありがたいことです。
こちらでごらん下さいませ。
香港漫画店10周年記念 店主謹製 香港漫画列伝 - Togetter