自由人物語

はい。新入荷UPしました。
1994年のSFアクション作品「離皇 CLUB MAD」。
きちんと創刊号から最終巻まで揃えるのは初めてでございます。
これは、1990年代の香港漫画界で異彩を放った出版社
「自由人公司」の代表的作品です。
司徒劍僑「超神Z」、栢迪「CELIA」、永仁&蔡景東「悪神RX」など
ひときわ抜きんでた画力、日本アニメやコミックの影響をダイレクトに受けた画風で
日本の漫画ファンにも大いにアピールした自由人公司の作品群。
そんな一連の流れの中央に位置するのがこの「離皇CLUB MAD」。
アニメと同じ「セル画彩色」という方法で作画され、
ひときわ鮮やかで垢抜けた紙面が眼を引きます。
「CELIA」も同じ手法でした。香港ではまさに「自由人」のお家芸
「離皇」では各巻の巻末に詳細な作画手順の図解がのっておりまして、
原画制作→下絵→彩色→エフェクト→仕上げ、と
ものすごい手数を踏んでいる様子が示されております。
香港の他の出版社が、基本的に週刊〜隔週刊で薄装本を刊行するため
きびしい時間制約の中で制作・発行をおこなうのに対し、
ここ「自由人」はふんだんに時間をかけて、ゆる〜い発行スケジュールで出していたようで、
そのぶん驚くべき緻密さ・丁寧さをもつ作品を残すことができました。
「自由人公司」は80年代後半、漫画家・馮志明と脚本家・劉定堅が中心となって興した会社で、
劉定堅が活字小説も顔負けのストーリー術を発揮した
武侠漫画「刀剣笑」を発表し大ヒット。
その後、今をときめく司徒劍僑や永仁&蔡景東、栢迪らも加わって
劇画タッチ一本だった香港の漫画界に新風を巻き起こします。
ところが90年代なかば「色情漫画事件」で業界中、いや香港じゅうの顰蹙を買い
同年代末に会社は分裂、しゅるしゅるしゅるとしぼんでしまいました。
この「色情漫画」、実は店主もまともに現物を見たことがありません。
いまの現地中古本市場にまったく出回っていないからです。
回収・発禁になったという記録は残っていないのですが、
たぶん地元で漫画に関わるすべての人にとって
早く忘れたい「黒歴史」だからかもしれません。
いや、それ以前に「何度も読み返したい」類の漫画でなかったからでしょうか。
今回UP「離皇」の巻末に、それらしき作品の広告は載っていますが
表紙は至って穏健なのであります。
ちなみに巻末広告にはもっと意外な出版物も出ておりました。
日本の漫画作品を未翻訳のまま出していたことがあったようです。
中には驚くような国民的人気作品も…おそらく許諾はとっていないでしょう。
そんなこんなで現地漫画界は
「自由人」のことをあまり思い出したくないらしく、
あれほど緻密に制作されたオリジナル作品群も、風の向こうに消えつつあります。
電子出版化もおそらくないと思われます。
(権利をたぐろうとすると、おそらく上記のブツに当たり、虎の尾を踏んでしまう危険が…。)
このまま散逸する前に、どうぞ当店在庫でご賞味を!