ああ、憧憬のbefore1974

はい。新入荷UPしました。
たいへんお待たせいたしました。「九龍城寨2」でございます。
長らく品切の創刊号〜第3巻もUPしましたほか
近刊をドドッとUPでございます。
どうぞお楽しみ下さいませ。
今回UP分は、パート1からの一連の流れの中でも
少々毛色が変わっておりまして、
主人公・洛軍のお父さん世代、若き日のエピソードを描いた
「1950年代編」がございます。
セピア色の想い出ということで、オールカラーの紙面も
古い写真やフィルムのような、セピアを中心とした渋い配色。
登場人物のスタイルも、赤木圭一郎小林旭か、
往年の日活アクションスターを彷彿とさせるレトロなダンディーさを追求し、
まあなんとカッコイイことでしょう。
こんなのも描けるようになったとは、
司徒劍僑もつくづく進歩したものでございます。
ぜひご注目いただきたいと思います。
ところで1950年代〜60年代の思い出話を描くというのは
ほかの黒社会コミック、たとえば「火紅年代黒骨棠」などでもありましたが、
決まって「あの頃はよかった。熱かった」と、憧憬たっぷりに描かれているんですね。
コミックのみならず映画でもみられるんじゃないかと思います。
1960年代までと、それ以降。香港の極道社会でなにが決定的に違うかといえば、
「廉政公署」があるかないか。これにつきるようです。
今回UP分の「九龍城寨2」にも描かれているのですが、
1949年の中共成立・難民大量流入から60年代まで、
香港は汚職がものすごく多い社会でした。
警察官はトップから街の駐在さんまでみんな、裏社会のみなさんと仲良しで、
やまぶき色のお菓子を介してズブズブの関係を築いていました。
まあもっとも、それでいろいろとやりやすくなった裏社会の皆さんが
安い食べものや商品・サービスを供する露店をやったり、
正規流通品を待っていてもなかなか入ってこない本を海賊版で流通させたり、
雑草のように生きる香港庶民の暮らしを助けた部分もあります。
とはいえもちろん、庶民が悪いこと・いやなことをされてもなかなか警察が取り締まってくれず
泣き寝入り、というマイナス面のほうがはるかに多く、
また60年代まで街角や工場、団地で頻発した暴動は
対立する中国共産党vs国民党がもちろんバックにいたものの
地元極道組織もやっぱり噛んでいたわけで、
石や火炎瓶が飛んでこずに快適に街を歩くには
社会の浄化が不可欠だったのであります。
というわけで1974年に汚職防止機関「廉政公署(ICAC)」ができました。
もちろん警察とは別の独立機関です。
効果は絶大で、いまは香港ではかなり汚職がやりにくいみたいです。
回帰した先の中華人民共和国はご存じ超汚職大国ですが、
そのへんはわりと「香港の独立性」がまだまだ残っているみたいです。
でもやっぱり地元の極道さんは思っているようです。
廉政公署ができて「つまんなくなった」と。
まあそう思っているからこその反社会組織なのではありますが…。
というわけで妙な憧憬と愛着たっぷりに描かれる今回UPの「1950年代編」は
ふんだんな資料をもとに、当時の情景を活写していて
香港現代史の資料としても価値が高いと思います。
どうぞごらんください!