店主はこんな漫画を描いてほしいのです

はい。新入荷UPしました。
先週デレデレデレリンコのサイン会レポをお届けした
孫威軍の新作「宮本武蔵的未来傳人」です。
そういったわけで第1巻には孫氏の直筆生サイン(&特製ハンコ印影)が入っております。
店主はいくら孫氏に萌えようとも
サイン本を私物には致しません。販売致します。
ぜひお客様に、この作品の面白さと
孫威軍氏の熱いサインマーカーのしたたりを感じていただきたく思っております。
今作もたいへん面白うございます。
原作つきですが、本のあとがきを見ると
孫氏は原作者・天航氏ともすっかり意気投合したそうで、
同じ方向をむいて良い作品を届けよう、という心意気をつづっておりました。
どうぞお楽しみ下さいませ!


さて「宮本武蔵」とタイトルに入っておりますが、日本物に非ず。
舞台は中華人民共和国で、1970年代の描写もございます。
そのとき大陸は文化大革命の終了まぎわという時期で、
本のオビにもその旨は書かれておりますし、
漫画本文中でも、はっきりとは描かれていないものの
それとなく文革下の暮らしを匂わせる描写がございます。
正文社→文化傳信→東立香港と、
わりと大手の出版社で作品を出し続けてきた孫威軍ですが、
ほぼ個人出版社レベルの「一漫年出版」に
移ったからこそできた描写かな、と思います。
店主は最近思うことがございます。
香港コミックの画力、描写力、迫力はすばらしい。すさまじい。
この凄い画力をもって
誰か「文化大革命」と「大躍進政策」を克明につづった漫画を描いてくれないだろうか?と。
体験者は香港にたくさんいます。でも、どんどん高齢化しています。
出来事が風化してしまう前に、
どうか誰か、ありのままを克明に描いた漫画を出してくれないか?と。
人は時としてとてつもなく大きな悲劇をおこしてしまいます。
小さな過ちがたくさん、複雑に重なることによって
どうしようもなく残酷で巨大な悲劇が起きてしまいます。
誰が悪いとか、加害者が誰で被害者が誰でとかいう前に
「起こった」ことは「起こった」ことだし、
これから生きる人が少しでも悲劇から遠ざかれるように
起こった悲劇はちゃんと後世に伝えることが必要だと思われます。
でも難しそうです。
もちろん大陸ではそんな漫画は誰も描けないし出せないし、
香港でも現状では出せそうにありません。
香港で、豊富な人的資源と影響力のある漫画出版社から出てほしくても
会社が大きくなればなるほど、経営において大陸マネーとの縁が深くなっていき、
大陸の御機嫌を損ねるような漫画は出しづらくなります。
かといってインディーズや同人は
流通経路が限られてしまうので意味がありません。
台湾で…うーん?台湾の人が描く必然性は「?」だし。
日本人漫画家さんが誰か描いてくれないかな、とも夢想しますが、
厖大な取材と資料が必要で、誰がそんな情熱を持ってくださるか…とも思うし、
日本の出版社のトップ陣はいま50〜60代。70年安保の時代の人が中心です。
当時の学生運動の人たちは、不十分で一面的な情報をもとに
共産中国、文化大革命にたいそう憧れを抱いていたとききます。
いままでそれが明確に「実はひどい出来事でした」と断じられたことがないし。


人の起こした悲劇とは、中国のこれらばかりではありません。
大躍進の関連事項として出てくるウクライナの「ホロドモール」、
ホロコースト、いろんな戦争のいろんな虐殺。
日本でもこのところ、ある巨大な悲劇を舞台にした漫画のことが
おおいに人の口にのぼっています。
店主はこの漫画については、作者がお亡くなりになられたときに
ツイッターで所感を述べたので、同じことは二度申しませんのですが、
まずは描かれたこと。出されたこと。(しかも、凄い描写力で)
それ自体がすでに素晴らしいことだった、と思われる今日この頃でございます。